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april.26.2016 花見計画
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「さくら祭りは5月に入ってからなんだけど、時期をずらしたほうがいいと思う。」
「なんで?」
「アホみたいに混むから。期間中の土日だと片道4時間以上かかる。」
「うっそ!このあいだ2時間くらいだったじゃんか。」
「ほんとだよ。一本道だから逃げ場がない。」
サトルに花見はいつごろがいいのか聞いてみた。早めに計画たてておきたいし、散髪もしたい。そうなるとトアもハルも俺も・・・もしかしたらサトルと飯塚も?5人、一人1時間と見積もっても5時間・・・。何時に着けばいいのか!おまけに花見もするとなると結構強硬スケジュールっぽい。
それに4時間なんていう渋滞に巻き込まれたら翌日の営業に関わってくるし。
「咲き始めより散りぎわのほうがいいと思うよ。俺が小さい頃は地元の人間しかいかない場所だったから、好きな木を選び放題だったけど。今は車を止める場所は決まっているし、火つけちゃダメですエリアがあったりで窮屈。姉ちゃん達は朝早くに車で見に行くみたい。お弁当持っていくとかジンギスカンするのは止めたってさ。」
「そうなのか。」
「おまけにレンタカーだろう?飲めないよね。バスって手もあるけど、混んでいること間違いなし。補助席に座るのは勘弁だな。」
「・・・確かに。そうなると肉食べるよりオニギリとかサンドイッチをパクパクするぐらいの方がいいかな。」
サトルは何かを考えている。お、なにかいい案があるのかな?
「かなりの強行突破だけど・・・。日曜の営業を終わらせて、その足で走る?真夜中のドライブ。」
「うわっ。まじですか。」
「もしかしたら1:00前には着けるかも。高速ガラガラだろうし。それで実家に忍び込んで寝る。んで、朝早くに出かけて花見をして戻ったら、全員散髪。」
「あ~やっぱり全員だよな。」
「3時前には出発したいよね。各々が家に辿りつくのは6時頃か。掃除と洗濯して終わりだな。」
「朝飯の常備菜が作れない。」
サトルの目がキランと光った。
「常備菜・・・。きんぴらとか?高野豆腐の煮たのとか?」
「まあ、そんなだね。」
サトルは腕組みをして真剣に考え始めた。何を考えてらっしゃるのですか、サトルさん。常備菜がないとなると朝飯が一気に寂しいものになる。作るのに時間かけていられないし。魚を焼く間にできる目玉焼きとか、だし巻、何かの炒めもの系か。味のしみた煮物がないのは寂しい。カブの浅漬けでもつくるか、それなら帰ってからでもできそうだし。
「ものは相談なんだけどさ。」
まるで相談って顔じゃないですサトルさん。若干圧を感じます、圧!プレッシャー!又は強制・・・。
「材料費は折半しよう。うん。買い出しは俺と衛がするから大丈夫。実家の分は俺持ちにするから。ミネ、その常備菜3世帯分作ってくれない?」
「はあ?」
サトルはちらっと飯塚を見た。読書に没頭しているようで、いいのか悪いのかこちらに背を向けている。
少しだけ顔が近づいてきて小声になった。
「俺ね・・・和食に飢えてるの。人助けだと思って承諾して。」
ぶはっ!!
俺は噴きだしてしまった。なるほど・・・そういうことか。和食の煮もの系は経験値がものを言う。新米奥さんが姑や母親の味に遠く及ばないと嘆くアレだ。出汁をきかせて、しっかり砂糖を含ませて酒と醤油で味付けすればいいだけ。でもシンプルだからこそ粗も出やすい。薄口醤油にすればキリっと上質な感じになったりするけれど、メーカーによって味が全然違うのが醤油。我が家の味にするためには調味料のセレクトも大事だ。飯塚の小さい頃に両親が離婚して父親と暮らしていたことを考えれば、和食はハードルが高い。サトルの実家の感じからすると、当たり前に和食が食卓にあったはず。
なるほど・・・それで蕎麦とか煮魚なんていう賄を嬉しそうに食べるわけか。性格からいって飯塚に「和食がたべたい。」なんて言わないだろうしね。飯塚が惣菜を買うはずもないから、サトルは和食からかなり遠ざかっているというわけだ。
「スケジュールも考えた。まずミネが一番に髪を切る。その間に俺は衛をともなって買い物に行く。
終わり次第ミネは常備菜作りに突入する。2番目は正明が散髪。終わったらアシスタント。3番目は衛。・・・それで。」
「それで?」
またもや小声のサトルさん。
「飯塚にそれとなく、和食の極意を伝授してほしい。」
ぶはっ!可愛い事言うじゃないの!
ニヤニヤする俺をみながら決まり悪そうにしているけれど、この要望を引っ込める気はさらさらないらしい。まあ1世帯分つくるのも3世帯分つくるのも手間は一緒だし。
「いいよ、作るよ。ちゃんとタッパー持っていかないとね。」
「クーラーボックスも持参する。」
「・・・やる気満々だな。」
いやはや、目をキラキラさせちゃって。こんな顔されたら頑張っちゃう飯塚の気持ちはよくわかるよ。
さてと、じゃあ何をつくろうかな。サトルの実家の分もあるってことは食べ慣れているけど意外性があるなんていうメニューのほうがいいだろうし。
「何を作るか考えなくちゃ。」
「なんでもいい、なんでも大歓迎!」
このあいだハルのアイディアでつくった中華風肉じゃがはどうだろう。あれ結構うまかったし。圧力鍋あるだろうか、サトルの実家。
「圧力鍋はある?」
「俺に聞くな。」
「じゃあ、紗江さんかおばさんに聞いておいてよ。」
速攻スマホを取り出しメールを送信した。仕事が早いって!笑えるな。食べることが好きな男にせっせと料理好きの男が餌付けをする。いいバランスなんだろうな、飯塚とサトルは。
「微笑ましい」って言葉がぴったりじゃないか。
スマホが鳴った。メールの返事がきたらしい。
「あるって。4.5L??サイズのことか。この大きさでいける?」
「ちょっと足りないな。うちから1台持っていくか。店のは20Lだから、さすがにでかすぎる。」
「俺は姉ちゃんとまめに連絡とって花見時期を見極める。今の予定では5月の9日あたりが最有力候補。今の計画を皆に提案してみる、というか納得させてくる!」
サトルはトアとハルの座るテーブルに向かった。飯塚が嫌というはずがないから、まずはあの二人か。
トアとハルが「ダメです、行きません。」なんて言うわけない。「ミネも納得した、トアとハルもOK、もちろん衛も賛成だろう?」そう畳み掛けるつもりだろうなサトルは。
食べることに興味を失ったら、この仕事を続けるのは難しい。身体にいいものを必要な量食べる。無駄に食べない分、1回を大事に。これは村崎家の家訓みたいなもので、母親がよく言っていた。
ほんと・・・そうだよな。
サトルに何か言いながら頷いたり笑ったりしているハルを見る。
へんなエアポケットに落っこちるかとビクついたけど、大丈夫そうだ。俺は俺。何があっても俺であることに変わりはない。じゃあ、今までどおりでいいってこと。
何かに変わろうとする必要もないし、俺らしく毎日を過ごせばいい。
そう考えたらスッキリした。
『成せばなる、成さねばならぬ何事も』
成すも、成さないも俺次第。
あせって結論を急ぐ必要はない。
立ち上がって紙とボールペンを手にしてテーブルに戻る。
さて、何を作ることにしようか。
献立と必要な材料の書きだしを始めればもうすっかり料理の世界。
一番安全な俺の世界。
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