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子猫と白ライオン
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「おはようございます……」
「何その酷い顔」
「……」
翌朝一睡も出来なかった俺は撮影場所に向かうなり怜さんに塩をまかれた
辛気臭い神様が移るからこっち来んなって……
もうそんな子供みたいな怜さんに突っ込む気にもなれなくってただ黙って大人しくしていた
「祥さん居ますか?」
「ん? あらぁ〜結葵じゃないの」
「怜さんおはよう」
「祥ならそこで沈んでるわよ」
「……ちょっと中入ってもいいですか?」
「いいわよ〜」
ボーと椅子に座っていたら
後ろから二人の会話が聞こえてくる
それでもなかなか切り替わらない頭の中で思い出しては後悔ばかりの昨日のやりとりに思いを馳せていた時
がくんっと体が前に倒れ込んだ
「祥ーさん」
「わ……!」
「祥さん昨日僕との約束ぶっちしましたね」
「あ、や……! くすぐったい!」
少し拗ねた声で抱きついてくる結葵君の手が脇腹を擽る
ゾクゾクと全身に鳥肌がたって必死にもがいていたらピタッと動きが止まった
「連絡来るの待ってたんですよ」
「……ごめん」
「何かあったんですか?」
「いや……ちょっと気づいたら家に居たと言うか……本当ごめん」
「……じゃあ今日一緒に夕飯食べてくれてら許してあげますよ」
「……ごめん、ちょっと一人になりたくて」
「僕が一緒じゃ迷惑?」
「えっ」
俯く俺の頭を結葵君の手がふわりと撫でる
それから直ぐに顎に手を添えると上に向かされて真っ直ぐ瞳を覗く潤んだ茶色い瞳が二つそこにあった
「ゆ、あ……くん」
「祥さん、僕に甘えていいんだよ」
「へ……?」
「今日はいつもよりも悲しそうだから……僕じゃダメですか?」
「な……に言ってるの……」
じぃ、と見つめてくる結葵君が
可愛い顔を困らせて微笑んでくる
その問いかけの真意は何
もう頭が追いつかない
これも全て冗談だって分かっているけど
笑い過ごすのも今日は億劫だ
「……僕の家来てください」
「……」
「お願い祥さん」
泣き出しそうな結葵君の表情に胸が鷲掴みにされる
昨日、真剣な直輝に俺はまともに相手をしなかった
……ダメだな
結葵君がこんなに近くにいても
泣きそうな顔をしていても
俺の頭の中には直輝ばかりが浮かび上がる
結葵君じゃダメなんてことは無い
きっといい子だし勿体ない程だけど
でも俺は直輝が……
「祥……!」
「へ?!」
「……誰」
俺にはまだ直輝が居るから
ごめんね、そう謝ろうとした時
結葵君の奥に直輝が立っている
控え室の扉の前
顎を掬われて顔を真っ直ぐに見つめられたこの状態を直輝に見られてる
「ッ! な、直輝!」
「……」
「待って! 違うの!」
「祥さんっ!」
「結葵君ごめんね! でも俺直輝のところ行かなくちゃ!」
「っ、祥さん僕まだ話して……」
後ろで結葵君が俺を呼び止めている
でもそれよりも先に直輝の元へ足は駆け出していて
もしかして勘違いされていたんじゃないかって
顎を掬われて向き合っただけでも
直輝から見たらそうは見えないかもしれない
ましてや昨日の今日だし
結葵君はただ相談相手として俺に声をかけてくれてただけで……
ほんとに何も無いのに
「な、おき! 直輝っ、待って!」
「……」
「ねえ、お願い……直輝!」
スタスタと歩いていく直輝の後ろ姿を追いかけて迷いが生まれる
追いかけてどうする?
結葵君とは何も無いって?
わざわざ否定する必要がある?
そんなこと、今更伝えてどうするんだ
それに俺が直輝の傍から離れた理由がこんな事で崩れていったらどうする?
あんなに傷ついて守った事が
今もしも直輝と話して誰かに見られでもしたら……
どくん、どくん、と嫌な考えに心臓が激しく打ち出す
ダメだ直輝を追いかけたらいけない
走っていた足がゆっくりとスピードを落としてやがて立ち止まる
はぁ、はぁって肩で大きく息をして
膝に手をついたまま床を見つめたまま息を繰り返しながら幾つもの考えが頭をよぎった
俺達はもう友達にも戻れないかもしれない……
その一つの新しい不安に今までよりもずっと苦しみが襲いかかってきた
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