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初めて聞く本当の声
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「もう守ってもらってばっかは嫌だ」
「……」
「また守ってもらって…………は嫌だ」
「しょ、う?」
呟いた言葉が雨にかき消される
力無く吐いた言葉は抑えきれなくなった涙と嗚咽に混ざって溢れ出した
「直輝まで消えるのは嫌だ……ッ、もう誰かが居なくなるのは嫌なんだッ」
「俺は、いなくならない」
「そんなのッ、分からないだろ」
「祥……ッ」
「そんな事……誰だって分からない……だから、嫌なんだっ。 父さん達も、陽も……今度は直輝が傷ついたら……? そんなの……耐えられないッ」
雨なのか涙なのかグチャグチャに混じった雫が頬を伝って、涙が流れた上をまた雨が伝い落ちる。
怒ったり泣いたり面倒くさいなんて、鬱陶しい事は嫌ってほど自分で分かってる。直輝だって沢山傷ついたのに、俺が沢山傷つけたのに今だって数え切れないぐらい傷を残したのに、俺ばっか泣いてるから直輝が俺を未だに守らなきゃって追い込むって知ってるのに。それでも涙が止まらない自分が、三年間あれだけ泣きたくても泣けなかった癖に今になって、直輝の前になって、泣いてしまう自分が嫌いで憎くて仕方が無い
それなのに直輝は俺を見るなり大好きだったその腕の中に抱き寄せてくれる。直輝は優しい。優しくて、強くて、真っ直ぐな人だ。だからこそ普通の幸せを──見つけて欲しい
「ーー祥ッ」
「ひっ、……ッ、う」
「祥……ごめん……三年前、俺がもっと……ッ」
「ち、がう……ッ、なおは、悪くっ、ないからぁ」
「どうしたらいい……ッ、祥……愛してるっ、今でもずっと愛してる……」
「ーーッ、ふ……ッ、う」
『愛してる』────
抱きしめられた腕の中で、直輝のその言葉を聞くのがこんな状況じゃないのなら今頃大声で何度でも言う。恥ずかしいだなんて、そんな小さなこと気にしないで、何度も何度も嫌になるほど声が枯れるほど直輝に言いたい
俺も、愛してる・・・・・・
今も、三年前からずっと、きっとこの先だって、未来のことなんかわからないのにそれでも言い切れるほど、俺もずっと愛してる
「……ッ、直輝」
「俺の隣に戻って来い……ッ」
「っ、……馬鹿、直輝……無理だよ」
「何とか出来る……。 二人で考えたらどうにか出来るだろ……?」
「……直輝、今のままじゃやり直しても俺達傷つけあって、ずっとこんなふうに繰り返して、最期にはきっとボロボロになってる」
「そんなの分かんねぇだろッ」
「そんなの分かんないから離れたんだよ」
「……ッ、もう本当に駄目なのか? 俺のこと好きじゃなくなった?」
「ッ、ばか……だなぁッ」
そんな馬鹿な質問しないで欲しい
本当に馬鹿だよ直輝は。
嫌いならこんなに泣いたりしない
嫌いなら腕の中に包まれていない
嫌いならもうとっくに離れている
嫌いならこんなに心が痛くなったりしない
一緒に手を取って歩くことが出来ない事がこんなにも悲しくて仕方ないわけがない
「ごめん……」
「ッ、嫌だ」
「直輝と……やり直す気持ちは、ない、よ」
「逃げないで聞いて……祥の事を愛してるッ」
「ッ」
「どうしたらいい……? それでも、祥といたい……誰かに渡すなんて嫌だッ」
「な、おき……もう無理だよ……別々の、道で生きよう」
「……」
「今度は、お互いの道に進んで、もしも会えたら……その時はまた」
「……ッそんな未来なら要らねぇよ」
「ーーッ」
「そんな……今だけの口約束とか、その場しのぎの言葉とかッ、要らねぇ。 俺はそんなもん……欲しくない」
「……ごめん」
「……」
「ごめん……ッ、ごめん直輝っ」
『愛してる』その言葉は泣いている様に聞こえた
泣きじゃくる俺を抱きしめた直輝の腕の中は暖かいのに冷たくて。涙を流していない直輝の『愛してる』と言う声は泣いている様に聞こえる。最後まで泣かなかった直輝が誰よりも、一番傷ついて、泣いている様に見えた。
何で言葉なんて複雑なものがあるんだろう
もっと単純でもっと簡単で見えやすいところに例えば心があったとしたなら、言葉になんて埋もれずに心が見えたとしたなら、きっと今頃直輝も俺も泣くことなんかなかったのになんて行き場を無くした怒りが形を無くして流れてく
「……ごめんね直輝」
そう最後の言葉が雨粒に流される。
雨に濡れて混じあった体温は離れたまま、
もう二度とくっつく事はなかった
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