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「リカちゃん先生!」
HRが終わり、教室を出ると背後から呼び止める声が聞こえて俺は足を止めた。振り返ると、そこにいたのは授業を受け持っている生徒。
けれど俺の視線が優先的に映すのはそいつじゃない。
先ほど別れたばかりの最愛の彼が今は生徒の顔をしてこちらを見ている。
その彼と目の前の生徒、どちらにも向けて俺は『先生』を演じる。
「どうした?」
問いかけに答えたのは最愛の彼ではなく生徒だった。
「ちょっと聞きたいところがあって……あれ先生、ネクタイ変えた?昼まではグレーじゃなかったっけ?」
指摘されたそれを掴みあげる。すると顔を背けたのは、まだこちらを見つめる彼だ。
「なんで急に変えたの?」
その理由を知らない生徒は純粋に聞いてくる。
「なんで、ねぇ……」
なんて答えようか。汚したから、どこかに引っ掛けて破れたから、無くしたから。理由はたくさん作れるけれど、きっと彼の求めている答えは1つだけだと俺は知っている。
そして、それがこの場で1番言うべきではないことも。
「昼休みに貰ったんだよ。首輪代わりに」
「首輪?」
「うちの奥さん、嫉妬深くて独占欲強いから」
隠さず答えた俺に生徒は目を見開き、離れた場所に見えるウサギも驚いたような顔をした。
2人ともが「まさか」と顔に書いてこちらを見る。
「なにその顔」
それはウサギに対しての言葉だったけれど、返事は目の前の先生からきた。
「いや…どうやって??ってか奥さんって何?!」
「んー…ほらあれだ。愛があれば何でも出来るってやつ。それより聞きたいことって何?」
後半の質問には答えず、逆に聞き返した俺に生徒は進路について聞いてくる。「調べておく」と答えると、手を振ってそいつの隣を通り過ぎた。
1歩、彼に近づく。帰る途中だったのだろうか、中途半端に廊下に立ち尽くす彼が俺だけを見た。
「兎丸、そんなに急いで帰ってどうすんの?」
「……勉強、とか」
「とか?」
「別に何でもいいだろ?!リカちゃ……っ、先生には関係ない」
そう言って睨みつけてくるウサギだけれど、その目は潤んでいて喜びを隠しきれてはいなかった。
汚れたスーツの代わりに羽織ったカーディガン。わざとボタンを開けたその間で揺れるのは、ウサギに見えないウサギの刺繍。
慧君が照れたように鼻を掻いた。
「このネクタイ、似合ってるだろ?」
貰った本人にそれを聞くと、睨みつけた目をそのままに小さく頷く。
「奥さんってバカじゃねぇの」
学校だからウサギは言葉を選んで話す。それに俺は言葉を選ばずに返す。
「本当のことだし…あ、でもまだ予約の段階だった」
落ち着いたトーンで、落ち着いた足取りで距離を詰め、同じ位置に立った。
置いていかれないよう、必死に追いかけていたその姿が隣にある。隣に立ってお互いを見つめ会える場所にいる。
俺は君の為に、君は俺の為に。
これからはお互いの為に生きていける。
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