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扉1枚隔てて感じる人の気配。
まだリビングにウサギがいるのがわかる。
別に怒ってるわけじゃない。
あの言葉は素直になれないウサギの強がりだってわかってる。
けれど、もしも。
もしもそこに僅かでも本音が混じってたら?
実は疎ましいと思われていたら?
だなんて情けないしガラでも無いことが頭の中を占める。
「冗談でも帰ってくるなはキツいな」
もし本当に俺が戻って来なかったら、あいつはどうするだろうか。
怒る?泣く?探してくれるだろうか。
帰ってきてと思ってくれるだろうか。
不安になるなと自分に言い聞かせても溢れるもの。
それにまだウサギは気づいていない。
気づかれてはいけない。
俺はあいつの邪魔になりたくなんかない。
『ずっと一緒にいたい』と願う気持ちの中に芽生えた『本当にそれでいいのか』という迷い。
あいつの選択肢を狭めたりしたくない。
今まで自分の思い通りにしてきた。
星一の代わりに生きると決めたのも、今ここにいるのも自分自身だ。
閉ざされた扉に手を触れる。
2人の間にある障害を思わせるそれに胸が痛い。
もし俺があいつと同じ学生だったなら。
せめて教師でなければこんなこと考えなくて済んだのに。
「リカちゃん寝た?」
扉越しに聞こえた声に慌ててベッドに潜り込む。
顔が見えないよう伏せて隠した。
「リカちゃん、」
そんな悲しそうな声出さないで。
そんなところに立ってないで隣においで。
そう言ってやりたい。
けれど今は言えない。
隣にやってきた慧がベッドに乗り上げ、スプリングが鈍い音を立てて軋む。
冷房で冷えた唇が頬に触れ温めてやりたい衝動に駆られた。
「リカちゃん…ごめん。さっきの嘘だから」
惜しむように離れていった唇。
去っていく温もり。
閉ざされた扉。
「…………ハァ。連れて逃げたい……って重症だな」
隠せない本音が漏れ、俺は自身を嘲笑した。
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