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8.脱出、孤独
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「よく手を洗えよ」
僕は帰ってすぐ、男にそう言われ手を洗った。まだ、幸いにも首輪を男に嵌められていない。もしかして、もう付けないでいいとされたんだろうか?僕が今回外出しても、逃げなかったから、そうと判断した可能性は高い。
「今日はピザの出前を取ってみたよ。お前の好物はなんだ」
席に座る男の正面の席に、僕も座る。僕は男にはにかみながら言った。
「初日に届けてくれた、カツ丼…とかかな」
男にそう話しながら、ちらと僕は玄関の戸を見る。…今日、逃げ出せるかもしれない、ここから。
「…そうか。お前はカツ丼が好きなのか」
男はやけに上機嫌にそう言うと笑んだ口元でゆっくりコーヒーを口にした。この男が何を考えているのか、僕をどうしたいのかそれは未だに謎で分からないけれど、…仮にこの男を裏切ることになったとしても、僕はここから今夜逃げなければならない。
裏切ることになったとしても、…か。被害者は僕なのに。命を救ってくれたのはこの男だけど。だけど僕は、この男とここで生活していく気はない。何故なら、この男の本当の企みは分からないから。…本当に僕のことを殺す気なのかもしれないしもしかしたら、やばいことをしてる男かもしれない。
…ならば早く、ここから逃げよう。死にたいとは思っても、殺される気はないんだ。もちろん、変なことをされる気もない。
この男が、本当に善人で優しい人だったら…僕はまだここに居座り続けただろうか。
…
………ーー
はあっ、……はあっっ……はあっっ…
一体、どれくらい走っただろうか。
真夜中、僕は男の目を盗んで家を飛び出した。脱出は成功したのだ。
やった……!やったぞ…!!
「…はあ、はぁ、はあ…」
やっと、やっと逃げ出せた……やっと。
「……はあ、……は、……」
………やっと…。
「……」
…あれ?そういえば僕の家、どこだっけ。ああ、電車で駅を8つ跨いだ先か。……お金、…もうない。まさか歩いてなんて行けない。行けたとしても、僕はあの家でひとり、…生きていきたくはない。…外、辺り一面真っ暗だ。
……あれ、ならば僕はなんであの男の元から飛び出したんだろう。どのみち生きようとなんて思っていなかったくせに、僕はなぜこんな夜道をひとり、金もなく歩いているんだろう。殺されたくはないし、叩かれたくもなかったが、もっと他にいい方法があったんじゃないんだろうか。せめて、金をあの男から少しくらい奪って出てくればよかった……僕ってほんとに、馬鹿だなぁ…。
「……」
………寂しい、な。
こんな感情を抱くのが嫌で、怖くて、絶望して、だからあの日死のうとしたのに。…あの男のせいで。僕はまだ、まだまだ、苦しまなければならない。あの男のせいで、僕はまた死から遠ざかってしまった。死ぬことも勇気はいるし、生きることも僕にとっては辛い。
消えたい、消えたいよ、ここから…。
ガサッ
「っ!」
…な、なにっ!?
公園のブランコに座っていた僕は後ろの草陰から聞こえた音に驚いて立ち上がり勢いよく振り返った。しかしそこから現れたのは野良猫だった。
「ニャー」
「…なんだ」
茶と白の猫のようだ。三毛猫…て言うのかな。街灯のあかりが猫の体を照らしたので分かった。
「ニャー」
「…もしかしてお腹空いてるのか?」
「ミャァ」
「ごめん何も持ってないよ。僕ほんとに頭悪いな、あの家にはお菓子だって何だってストックはいくらでもあったのに…」
でもそれらを盗んで逃げ出す余裕すら僕には無かった。…これからどうしよう?
僕は猫を抱えるとその場を立ち上がる。
とにかく、朝が来るのを待とう。僕は猫を抱きながら目を閉じた。
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