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「なるほど、甲斐さんはわたしがストーカーしていると思われたのですね。」
「ほんっっっとぉに、申し訳ありませんでした!!」
弥平太では襖が取り払われてテーブルがひとつに合体した。
課長の前に、真っ赤な顔の寺田さん。
寺田さんの横におれ。おれの前に山野さん、お誕生日席に清水さんが座っている。
課長に事情を説明したのは、山野さんが話した方が良いと言ったからだ。
勘違いから波及した告白事件は、未だに課長と寺田さんを茫然とさせていた。
いや、茫然っていうより、夢見心地なのかもしれない。
「あの、多分私のせいなんです。」
「寺田さんの?」
寺田さんが顔を覆った。
「私が甲斐さんに、課長からずっと見られてますよって教えたから!!」
「ええ?!」
・・・オンナが出ている。
めっちゃ寺田さん、顔を両手で隠したまま、イヤイヤしてる。
「そ、そんな!わたしは寺田さんしか見てなかったのに!」
・・・聞いてて恥ずかしい。
おれがイヤイヤしたい。
「あ、で。電話で言ってたGPSってどれ?」
山野さんが苦笑いをしながら言った。
おれは鞄を開けた。
あ、ボイスレコーダー入れっぱなしだった。
寺田さんに記念にデータあげよう。
「えっと、これなんです。」
清水さんが片眉を上げた。
「・・・へぇ、金掛けてるね。」
本職の清水さんの前にコンビニ袋に入れたGPSを置くと無表情で説明してくれた。
「これはネットや大きな電器屋で簡単に購入できるものだけど、安物ではないよ。」
清水さんが言うには、GPSもピンキリで、これは高い部類のものらしい。
「4、5万てとこかな。充電式だよ。」
「・・・充電式。」
山野さんが型式で検索したら、充電は14日程度保つらしい。
「んー、甲斐さん。今動いてるってことは、14日以内に会ったヤツだよ。そして、いつでも充電できるって自信があるんじゃないかな。」
「いつでも、充電ができる・・・?」
思わず山野さんと顔を見合わせた。
「俺じゃねーぞ。」
「ですよね。ごめんなさい。」
山野さんに向かって手を合わせた。
「しかし、薔薇と写真ってどんなヤツなんだろう。」
「・・・わたしの憶測ではあるが、ロマンチストで神経質。そのくせ自己顕示欲があるタイプだろうな。」
ロマンチストで神経質、自己顕示欲?
「甲斐くん、思い当たる人っている?」
「うーん・・・。」
14日以内に会ってて、ロマンチストで神経質で自己顕示欲がある人・・・。
「全然、思い当たりません。」
「山中さんは?」
もう、山野さんて全然課長の名前を覚えないんだから。
「わたしも思いつきませんね。でも、甲斐さん、その性格はドクターに多そうな気がしますよ。」
「ドクター・・・。」
山野さんを見つめた。
「俺じゃないって。」
「分かってます。」
ドクターに会ってるときに、鞄から目を離す事なんてない。
「甲斐さんに固執しそうな女性ってどなたでしょうか。」
課長の不思議そうな言葉に、ハッとした。
そうだ。
ストーカーって男性だけじゃない。
女性のストーカーだってありうる。
ドクターに会ってるときに鞄を手から離したのは、胃カメラの検査の時くらいだ。
でも、たかお先生は違うと思うんだけど・・・。
「ダメだ!おれに興味持ちそうな人って、全然思い当たらない!」
早々に匙を投げた。
「甲斐くんはモテるから心配だよ。」
「そんなこと言うの、山野さんくらいです。」
イヤイヤをしていた寺田さんが顔を上げた。
「そんなこと言って、バレンタインデーのとき別のフロアの女の子からもチョコレート貰ってたじゃないですか。」
「あんなの義理ですって。」
山野さんの眉が寄った。
「寺田さん、そんなに甲斐くんはモテてるの?」
「はい、甲斐さんは経理の子たちからもモテてます。」
ええ?!
初耳だし。
「そういえば一階の不動産屋さんの子じゃなかったです?わざわざ会社まで訪ねてきた女の子。」
「違う、旅行会社の子。」
あれはちょうど出張で使う新幹線のチケットを持ってきてもらったついでに、チョコをもらっただけ。
おれなんて、モテるわけがない。
「甲斐さんてば、無自覚だわぁ。」
「そうです、てっきり寺田さんもと思ったんですから。」
寺田さんの発言に課長が乗った。
そして、お互い真っ赤になって俯いた。
・・・見てて、めっちゃ恥ずかしい。
10月なのに、桜が見える。
床からチューリップの花も咲き始めた気がするし。
「おふたりとも、この字に見覚えはないですか?」
山野さんが鞄から例の手紙を取り出した。
春を迎えていたふたりは真剣な顔で手紙を覗き込んだ。
「うーん・・・。」
「強いて言えば、富永さんの字に似てますけど。でも違う気もします。」
写真と薔薇、手紙とGPS。
「とにかく、甲斐さんはひとりにならない事だね。常に誰かと行動を共にしてください。」
清水さんの言葉に、課長と顔を見合わせた。
「・・・甲斐さん、協力はします。」
「ありがとうございます。」
協力「は」します。
単独で営業をしているから、難しいことが課長もおれも分かっている。
だから、お互いに「可能なかぎり」という注釈が入ることは分かっていた。
おれたち5人はそれぞれ連絡先を交換したうえで、今後の方針を決めたのだった。
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