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階段を駆け降りた瞬間、大きな壁にぶち当たった。
温かくて、強くて。
汗ばんだ胸の中に抱き留められて、ぼくは息が止まった。
「忍ッ!見つけた。」
びっくりした。
信じられなくて息を詰めたまま、その胸の中で身じろぎした。
「お、まえ、急に消えんなッ!!」
荒い息が耳に掛かってゾクリとした。
「は、なして!おばあちゃんのところに行かなくちゃ・・・!」
胸を強く押し返して、涙の浮かぶ目で睨みつけた。
「歩さんの、バカッ!」
何で、いま来るの?
何で、見つかっちゃったの?
何で今なの?!なんでなんで!!
「おばあちゃん?!病院か!」
「放っておいて!」
走り出そうとしたら、強く腕を引かれた。
「タクシーはこっちだ!」
「あっ・・・!」
引き摺られるように走りながら、強く掴まれた手首が嬉しかった。
こんな時なのに不謹慎で、やっぱりそんな自分が嫌いで、なのに心がざわざわして、あったかくなって。
「バカッ!バカ、バカ!」
「いいから走れ!」
何故か歩さんも一緒にタクシーに乗って。
震える指も絡め取られて、おばあちゃんに置いていかれる恐怖が和らいだ。
「忍。お前、二度と離さないからな!」
「バカでしょ!」
こんな時なのに。
こんな時なのに!
「バカかもしんねーけど、真実だ。」
「バカ!」
涙がポロポロ溢れた。
病に蝕まれていくおばあちゃんの前では泣けなかった分が、今、溢れ出てきているみたいだった。
「おばあちゃん、もう・・・。」
最期かもしれない。
お母さんとおじいちゃんの元へ、旅立っていくのだ。
「うん。」
揺れる車内で、歩さんがぼくの肩を抱いてくれた。
その体温が、ますますぼくの胸を締め付けて、苦しくて歩さんの太ももを拳で打った。
「バカ・・・っ、何で、」
逃げたのに、見つけちゃうの?
せいせいしたって、なんで放っておかないの?
「何でって、当たり前だろ。」
「・・・え?」
歩さんの太ももに打ちつけていた拳を、手のひらで優しく包まれた。
「だって、ほ」
「お客さん、夜間入り口に着けますね。」
タクシーの運転手さんの言葉に、ハッとした。
「はい、お願いします。」
タクシーは滑るように入り口に着いた。
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